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「ーー」はやめてほしい

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 ネットにアップされている文章を読んでいると、本来「――」としなければいけないところが「ーー」となっているものをよく見かける。読んでいて、とにかく読みにくくって仕方がない。正しい使い方ではないし、やめてほしいと思っている。

 「――」は「二倍ダッシュ」といって記号の一種である。
(正確に言うと二倍ダッシュは、二倍の長さの一本の線であって、横組みでも縦組みでも間に隙間はない。印刷物ではそのようなものをつくるから問題なく、パソコンでも unicode で指定すればそういう外見に出来ないわけではない。しかし、unicode の表示はシステム依存になるので、パソコンによって見え方が変わってしまう。いろいろな面で処理が非常に煩瑣になるので、そこまではする必要はなく、「――」がいいと私は思う)

 順序が前後するが、たとえば、

リトアニアの有名なイェシヴァ――たとえばヴォロジンのそれ――を卒業した人々の一部は、ユダヤ教の実践を捨て、新しいヘブライ文学の支柱、ひいてはシオニズムの文化的偶像となっていきます。
  『イスラエルとは何か』 P.95
     ヤコヴ・M・ラブキン 菅野賢治=訳 平凡社新書

のようなのが「二倍ダッシュ」。

 この「――」は、文字組みの際の記号のひとつで、それらの記号を業界では「約物(やくもの)」と言っている。以下のようなのが「約物」

 。 、? ! 「 」( )『 』 / ・ 
 一方、「ーー」における「ー」は「音引き(おんびき)」と言う。またの名は「長音符」である。これも「約物」の一種だという人がいるが、私は「文字」の一種だと思う。  もともとの日本の文字体系には存在しなかったが、近代になって使われるようになった「ゃ ゅ ょ っ」や、それよりは最近に属する「ぁ ぃ ぅ ぇ ぉ」の類と同様なものである。(日本国憲法には、促音の「っ」も使われていない)

 「ー」と「―」には「文字」と「記号」の違いがあるから、それに準じた使用の仕方をしなければならないと私は思う。

 いや、お前は〈「ー」は「約物」の一種とも言われている〉と書いたばかりではないか、「約物=記号」だろう、と抗議されるだろうか。
 私の感覚では、「ー」は「文字」以外のものではあり得ない。その理由もあれこれ書けないわけではないが、べつにこだわりはしない。今の話としては、どちらでもいい。

 確実に言えるのは「音引き」の「ー」は音を示しているのに対し(1モーラ持っている。モーラは「拍」と訳される。音節(シラブル)と似たようなものだがちょっと違う。ごぞんじなくて興味がある方はネット検索をすれば簡単にみつかります)、「約物」である「――」は文章の構造を示しているだけで音を表わしてはいない。「 」や( )句読点などの「約物」は、校正作業などの場合は別にして、「かぎかっこ」とか「おこしパーレン/うけパーレン」とか、読む時に、いちいち頭の中で音にしている人はいないだろう。

 上を前提にして改めて書くと、「――」にすべきところで「ーー」になっているのが私にとって苦痛なのは、要するに「ー」がモーラを自己主張しているために、頭の中で引っかかって仕方がないということになろうか。もちろん視覚的な違和感もある。ただの真っ直ぐな線であるべき箇所がくねくねした文字になっているのが、大変に気持ち悪いのだ。

 ちなみに上記「ヤコヴ・M・ラブキン」のような場合の「・」は業界では「なかぐろ」という。約物である。これに関しては、知る人ぞ知るたいへん悲惨なエピソードがある。

 けっこう昔のことだが、以前「フランシスナカグロベーコン展」というポスターが実際に掲示されてしまった。本来は「フランシス・ベーコン展」としたかったものがそんな印刷物になった。
 電話で確認をとったのだろう。「フランシスナカグロベーコンでお願いします」「はい、了解しました。フランシスナカグロベーコンですね」「そうです」といった会話が交わされたと思われる。双方ともきっちり確認したつもりでいたら、とんでもないことになった。
 
 ついでのついでながら、
 IT技術者の世界では、「ー」にすべきを「―」で代用させている人達がけっこう多いらしい。正確に言うと、全角のダッシュ(or ダーシ)「―」ではなくてプラス・マイナスのマイナス「-」を使うらしいが――。

 たとえば、チャイコフスキーではなくて、チャイコフスキ-。

 これは、たぶんローマ字入力をしているときに「ー」が見つからないからだと思う。
 PCにおけるローマ字入力がどうであれ、ヘボン式にも日本式にも、もともと「ー」は存在しない。どのように表記するかが、まったく想定されていないのだ。学校で教わったローマ字を念頭においてキーボードに向かっても、「ー」をローマ字でどう表記するかなんて分かるわけがない。
 もちろん調べればすぐに分かるはず。それをものぐさな人が面倒がって、とにかく当座の必要をこなそうとしてマイナスの「-」を流用するわけだろう。

 いうまでもないが、「ー」は一番上の段の「0」の右隣、JIS配列では「ほ」のキーがそれにあたる。ローマ字入力に設定してあるなら、そのキーを打てば、即「ー」が出てくる仕組みになっている。

 逆の例、今回問題にしている「――」の方だが、これも確かにキーボード上にはみつからない。
 半角の「-」は存在する。英数字入力に換えれば「ほ」のキーが何もせずに「-」キーになり、shift との同時打鍵で「=」になる。
 しかし、半角では日本語の文字組みには適さないので全角の「=」や「―」が欲しくなる。
 そこで、「変換キー」なりなんなりを押して日本語用のキー配列にすると、こんどは「―」ではなく「ー」になってしまうわけだ。

 で、それ以上を追究する労をとらない、やっぱりものぐさな人達が「ーー」を連発することになるのだろうと私は思う。

 これは、やってみれば全く簡単な話で、「ー」を打鍵したあとに変換キーを押せばいくつか候補が出てきて、その中に「―」も「-」も含まれている。IMEにもよるだろうが、(もう一度「変換」キーを押したりして)次候補に移動すれば「―」になる。「ーー」と入力して変換すれば(少なくとも何回かやって学習させれば)すぐに「――」になってくれるように変化する。

 というわけなので、多くの人が「ーー」をやめて「――」にしてくれるように希望するのでした。


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